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希望舞台の出会い

ほたる草

福井県朝日町

 白いやわらかなホタル草が、電灯を消し真っ暗にした部屋の中で弱い光を点滅させている。私がシャワーを浴びている間に、リッチャンは本当にホタルを探しに出掛け、ホタル草の中に入れてきてくれたのだ。もう夜中の1時はとっくに過ぎているというのに。私は初めて見るホタル草のやさしい光りに、しばし見惚れていた。

 今夜は朝日町の公演を主催した『ホッとひと息 母ちゃん倶楽部』の打ち上げ会と解散式だった。 30人近くの、30~40代の母さん達(独身は1人だけ)が、午前0時をまわっても帰ろうとしない。倶楽部は「今日もって解散します」の声にイヤダーという空気が座を走った。終わっても終わっても余韻の残る取り組みだった。
 町の皆んなが集まって、人間が好きになるような感動を皆んなで味わいたい、そういう劇場を創りたい。リッチャンのそんな想いが1人、2人と仲間を呼び、大きな輪になった。1人1人が生き生きと自分の個性を出して、殺風景な体育館は気配りとやさしさいっぱいの劇場に変身した。トイレは、きれいに清掃されて、新しいスリッパが置かれ、小さな花が飾られていた。花びらひとつひとつを切って作った、廃物利用のコスモスが通路を飾った。

 公演10日前にチケットは満員御礼の札止めになっていた。
 観客全員にホウ葉メシを配りたいという提案があり論議した。梅雨どきだからもし食あたりをだしたら大変だから止めよう、イヤ、ホウ葉メシは昔から伝わるこの地域の郷土料理、ホウ葉には殺菌作用がありくさらない。昔の人の知恵が今も生きているのだ、伝統の知恵を信じよう。
 しかし700個のホウ葉メシを作るには、ホウ葉が1400枚いる。この季節は山奥まで行かないと使える葉は手に入らない。それなら山に採りに行こう、2~3本の木を倒せば1400枚は採れるだろう。と、遂にある朝、母ちゃん達はホウの葉を採りに行った。

 そして当日の朝、700人分のもち米を炊き、ホウの葉を1枚1枚洗って水分をふきとり、700人分のホウ葉メシを作った。「来ておっけて、おおきにの」という方言が、1つ1つのホウ葉メシに添えられていた。体育館の舞台条件は悪く、公演班の準備はギリギリまでかかった。入場を待つ観客は、開場と同時に靴入れのビニール袋とホウ葉メシを手にして、走るように入場してきた。会場係の母ちゃんは、そんなお客さんを思わず拍手して迎え入れた。場内は白いテープで桟敷がます目に作られていた。満席の観客は、後ろの後ろまでピクリとも動かず、ひとつのかたまりとなって舞台に集中している。思わず笑ったり、緊張したり、劇場がひとつの呼吸をしていた。

 そんなとき、非常ベルが鳴ってしまった。効果のスモークに反応してしまったのだ。しかし、観客は誰ひとり動かない。何という集中だろうか。私はベルの音にあわてながらも感動してしまった。
 最後のお客さんが帰り、ロビーはピンクのそろいのTシャツを着た母ちゃん倶楽部のメンバーの喜びの歓声と拍手に湧いた。

 そして驚くことに、あれだけの人が集まったのに、場内には靴入れのビニール袋も、ホウ葉メシの葉っぱも、何一つ落ちていなかった。チリひとつない客席に、私は言葉もなく唸ってしまった。人間ってこんなにステキになれるんだ。
 リッチャンありがとう、フーチャンありがとう、伸ちゃん、ヒロミさん、みんなみんな本当にありがとう。

記・玉井 徳子(1999.7.30発行 つうしんNO.24より)